静岡家庭裁判所浜松支部 昭和41年(少ハ)1号 決定 1966年5月25日
主文
少年を昭和四一年五月一〇日以降同月二九日まで特別少年院に継続して収容する。
理由
少年は窃盗保護事件により昭和四〇年五月一一日当裁判所において特別少年院送致の決定を受け同月一三日久里浜少年院に収容され、昭和四一年五月一〇日収容期間満了予定のところであった。ところが同年四月二六日付久里浜少年院長川島真一より当裁判所に対し少年の退院後における社会適応性具備のため現在同少年院において少年に施している乙種危険物主任者の資格取得のためにはしばらく収容継続の必要ありとしてその申請があった。
よって安ずるに当裁判所調査官の調査結果と少年の供述等に照し、本件申請は少年院法第一一条第二項所定の事由ありと認め同条第四項に則り主文のとおり決定する。
(裁判宮 植村秀三)
参考一
調査報告書
静岡県家庭裁判所浜松支部
裁判官 植村秀三殿
昭和41年5月24日
同庁家庭裁判所調査官 小口進
少年 M・R 昭和20年8月21日生
上記少年に対する調査の結果は不記の通りでありますから報告致します。
I 収容継続申請、当庁昭和41年少ハ第1号昭和41年4月28日受理
昭和41年4月26日久里浜少年院長
少年は昭和40年5月11日静岡家庭裁判所浜松支部において、少年院院送致の決定を受けたもので、昭和41年5月10日期間満了となるが、別紙理由によりなお矯正教育の必要があるものと認められるので、少年院法第11条第2項以下による収容継続の決定をなされたい。
処遇経過
50.5.13入院2級の下
40.7.1本科編入(印刷科)
40.8.4進級2級の上
40.10.8降級2級の下(事故のため40.9.24発生)
40.11.11実科変更(自動車科)
40.12.22進級2級の上
41.3.2進級1級の下
41.3.3実科変更(建築科)
在院成績
入院以来下記の通り反則事故があるが、成績は向上している。
40.9.24傷害、謹慎30日(2級の上より2級の下に降下)
心身の状況
IQ101発陽型で楽天的であるが気分屋である。自己顕示性が強い、身体状況良好 体力中 現在著愚なし
受入環境
保護者は父M・S52歳工員が浜北市○○××××の△に居住し、本人の母及び弟2人との家族構成である。引受意志は積極的で、家族間の折合、地域環境ともに良好であり、受入について特別問題とすべき事項はないものと思われる
意見
1.処遇段階はいまだ1級の下である。
2.本人は目下当院において、乙種危険物取扱い主任者の資格を得るための指導を受けており、その試験が本年5月28日神奈川県において実施せられる予定であるため、該資格を取得させた上で出院させることが更生上望ましい。以上の理由により本人を期間満了により出院させることは不適当と認め、試験の翌日である本年5月29日までの収容継続を申請する。
参考事項 面会6回 通信発8回 受3回
II 調査の結果
1.院内生活
入院以来の成績は、40.9.24の傷害事件の発生を除けば、順調である。入院中の他の少年と比較すれば、矯正の効果が著しく向上している少年である。
(傷害事件の大要)
(1) 少年は40.9.24前8.20ごろ、印刷科実科教室において、同科の少年Aに対し、丸椅子をもって同少年の頭部を殴打し、長さ約5センチメートルで深さ骨膜にたつする傷害を負わしめたものである。
(2) 動機など
A、B、Cらは少年らの部屋のものに対し、いばり、部屋の少年らに私用を命じたり、いやがらせが多かった。前日もお彼岸で特別食の「おはぎ」を部屋へ持ちこませたり、講堂で行事があれば無理やり舞台にたたせたりしたことがあった。
少年は同室のD、Eらと相談してAをやっつけることにし、当日実科教室でDがCに向い、少年はAに向っていったもの。
(3) 処分
少年院では地検横須賀支部へ告発、その結果送致され
横須賀簡易裁判所の略式命令で 罰金1万円
罰金は少年の父が納付している。
※この種の暴行、傷害は院内で多発しており、告発する程度のものは年間10件位ある(分類課長)
前記傷害の他に特記する問頭行動はない
41.3.2普通自動車の運転資格取得
現在「危険物取扱い主任」の資格取得のため勉強中
2.家庭環境
前回調査時と同様である。
機関には協力的 これまで面会、通信もよくなされ、地区保護司ともよく相談している。
少年が運転資格、危険物取扱い資格を取得して帰れば、将来自宅でガソリンスタンドでも経営できるようにしてやりたい(父)
3.特記事項
少年の場合、成績から本退院を考えていたが、上記試験が5月28日に実施されるため、帰宅させて受験することは不便であり、少年保護者とも在院のまま受験したいと希望するのでこの申請がなされた。
合格するものと予想されるが、結果いかんにかかわらず5月29日に退院させたい。
20日間程の継続であり、「帰住の都合」の名目で在院させることも考えたが数日間ならこの取扱いもなされるがやや長期なのでこの申謂をなした。
少年の資質から、仮退院、保護観察に付する必要も全くないわけではないが、本退院を予定した少年であり、収容継続期間は申請の期間だけにしていただきたい。
仮退院となると、これから更生保護委員会へ申請することになり審査の期間が1~2ヶ月はかかり、少年にこくである(分類課長意見)
3.調査者の意見
この申請は理由あるものと思料する。
(1) 少年院法の趣旨から考えれば、この申請は変則例外的なケースである。しかし矯正教育の効果、また少年の健全な育成という大きな目的からすれば、この種のケースにおいても収容継続がなされるべきものと思う。
(2) 現行少年院法の運用でまかなえない以上やむを得ない。もちろん少年の犯罪的傾向が現状で充分矯正されているものではないから、なおしばらくの期間退院後の保護観察も望まれるが、更生保護委員会での審査は日時を要するとのことで、ために少年の仮退院もおくれることが予想される――こうした関係機関の処遇がより少年を中心になされれば、この面での問題は解消されるものであるが――
(3) このケースを通して現行少年院法の不備、関係機関の弾力的な運用といったことが感じられる。
参考三
裁判官
認印
審判調書(第1回)
静岡家庭裁判所浜松支部
昭和41年少ハ第1号 裁判官 植村秀三
少 年 M・R 裁判所書記官 伊藤正
保護者 家庭裁判所調査官
保護者 日時 昭和41年5月25日
附添人 場所 神奈川県久里浜少年院
出席者 分類課長 成瀬正房
人定質問
氏名 M・R
年齢 昭和20年8月21日生
職業 少年院在院中
住居 神奈川県久里浜少年院内
本籍 静岡県浜北市○○××××番地の○
少年の陳述要旨
1.この少年院に来たのは昨年の5月13日であります。それで本月10日収容期間が満了になりました。
2.少年院長からの収容継続の申請については自分は異存はありません。
3.自分はもう成人でありますから資格を取得したら真面目な仕事をしたいと思います。再び悪るいことはしません。
出席者分類課長成瀬正房の陳述要旨
1.本件申請の事情は意見書の通りで試験は院外で行うわけであります、その試験が終了すれば退院するわけであります。
裁判官
別紙決定言渡
昭和41年5月25日
静岡家庭裁判所浜松支部
裁判所書記官 伊藤正